張良

今回の檀の会の最後は張良という曲です。この曲はワキ方のとても重い曲で、あまり上演されない曲です。私が観たのは30年以上前に師匠のご先代の武田太加志先生が舞われた時でした。この時は地謡に出させていただきました。今回は私の25周年記念で、隅田川だけでは悲劇でお祝いらしくないので、この曲を選曲しました。

ワキは村瀬提氏で、私が以前拝見した時のワキの故村瀬純氏の甥になられます。純氏には私が子方時代、内弟子時代から長きにわたり大変お世話になりました。こわもての顔とは違い、とても優しい方でした。特に家内が亡くなった時、涙を流して、本当に親身になって慰めてくださいましたことは忘れません。私より一回り上の寅年でした。還暦を迎えられたおととしの1月の能楽協会の新年会でお目にかかり、その数日後、海外公演先で急逝されました。この年は崇俊が足を骨折し、関根祥人氏、私の母が亡くなるという悲しいことばかりの年でした。来年は家内の7回忌の年でありますし、純氏への想いもありまして、提氏にお願いしました。

張良という曲は作者は観世小次郎信光といわれています。この人はワキ方で、紅葉狩などワキが活躍する曲を数多く作りました。シテは黄石公、ワキが張良です。まず張良が登場し、中国のかひという所で馬上の老人の落とした沓を拾うと、老人が兵法の奥義を伝えるという夢を見たことをいいます。張良は半信半疑でかひに行くと、老人(前シテ)が登場し、遅いぞといい、5日後に出直して来いといって、怒って消えます(中入り)。5日後再び張良は再びかひに行きます。すると黄石公(後シテ)が馬に乗ってきます。黄石公はよく来たといいながら、張良を再び試すために沓を川に落とします。ここからが見所です。沓はご宗家から拝借します。かなり古いもので、私も1度しか見ていないので、よく覚えていませんが、革製の中国の沓の形だったと思います。この沓を後見が舞台へ放ります。これがかなり大変なことで落としてはいけませんし、大事です。流れた沓を拾おうと張良は悪戦苦闘します。しかし拾えません。この辺のワキの型はかなり激しくダイナミックで面白いです。ワキがこれほどの型をする曲はないのではないでしょうか。そこへ龍神が登場し、沓を奪い取ってしまいます。しかし張良は剣を抜き、龍神に立ち向かい、沓を奪い返します。張良は黄石公に沓を履かせます。黄石公は褒め称え、張良に兵法の奥義を伝えます。黄石公は金色の光を放ちながら消えます。1時間ぐらいの割と短い曲でとても面白い曲ですが、ワキが中心の曲のためかあまり上演されません。(シテ方としてはあまり勤めたいという曲にはなりにくいのだと思います)この話は能の鞍馬天狗の中で鞍馬山の天狗が牛若丸に話すところにも出てきます。天狗が牛若丸に兵法を伝えるという場面とだぶらせているのだと思います。

今度の檀の会は田村、隅田川とともにとても面白い曲ばかりです。是非ご覧いただきたいと存じます。

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